台風に振り回されて 〜雲ノ平縦走2017/8/5〜8/7〜

去年、職場の後輩が山登りを始めた。
はじめて一緒に登ったのは両神山だったが、その時はここまで登山にのめり込むとは思わなかった。
単独で二泊三日の屋久島登山を敢行、毎月奥多摩や秩父などの山に登り力をつけている。
その後輩が、「アルプスに登り連れていってほしい」ともちかけてきた。
当初は二泊三日で新穂高から三俣蓮華岳の往復ルートを考えていたのだが、
せっかくだからと三泊四日で雲ノ平を取り囲む百名山4座を登頂するグランドスラムを計画。
仕事の後に我が家で集合、6時間かけて富山の折立登山口まで車を走らせた。

折立駐車場までは有峰有料道路を通らなくてはならない。
この有料道路、厄介なことに6時〜20時まで通行可であり、それ以外はゲートで封鎖されているのだ。
現地に着くまでその事を知らなかった僕等は渋々とゲートの前に車を停め、仮眠することにした。
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早朝、車を出ると後続にはゲート待ちの車がずらりと並んでいた。
見上げると空は快晴、夏山日和になりそうだ。

ゲートが開き車を走らせる。折立登山口は車で一杯だ。
選ぶ間も無く空いている駐車場に車を停め、早速準備に取り掛かる。
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登山届けを出していざ入山。
気持ち他の登山者のペースが早い。
大きなザックを背負った単独の女性、トレランの様に軽装な装備で駆け上がる様に登っていく男性と早めのペースで登っていく。
さすがは北アルプス、強者ぞろいだ。
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登山道は整備されており歩きやすい。
難なく三角点までやってきた。
遠くにひと際険しそうな山が見えた。
剱岳だ。
少し休憩をとる。
稜線に小屋の様な建物が見える。
あれが目指す太郎平小屋だろうか。まだまだ先は長そうだ。
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3時間ほど歩いて太郎平小屋に到着。
先ほど三角点から見えた小屋は薬師小屋だったようだ。
ポカリを買い喉を潤す。
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小屋から薬師峠のテント場までは15分位下ったところにある。
歩いていくと、青空が開け、その先には北アルプスのシンボル、槍ヶ岳が僕等に姿を見せてくれた。
はじめて見る槍ヶ岳に後輩も嬉しそうだ。
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テント場に到着。平らなところを探して設営する。
この日のためにと後輩がオニドームというアライのテントを新調してくれた。
テント設営を終え、空身で薬師岳山頂を目指す。
薬師岳はガスで覆われていた。
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登り始めは結構な急登だが、荷物が軽いため軽快に登ることができる。
そのうち青空が見えてきた。
天候が回復の兆しをみせる。
今年の梅雨は雨が少なかったため、残雪が大きく残っている。
反対に緑のお花畑には無数の高山植物が夏を彩っていた。
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薬師小屋に到着。
目の前には九十九折りの急斜面が続いており、その先には祠が見える。
あそこが山頂だろうか。
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「追い込んでみよう。」と今の力量がどんなものかと急登を最大限の力で登ってみる。
重そうなザックを背負ったパーティをあっという間に抜き去っていく。
これがウルトラライトの強みなのかと実感する。
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山頂と思ったところはニセピーク。
本当の山頂はもう少し先のようだ。
ひとまず腰を下ろし、後輩が登ってくるまで身体を休める。
さらに稜線を歩いていくと、先ほどよりも大きな祠が立っている。
薬師岳山頂に到着した。
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山頂はガスで覆われており辺り一面真っ白だ。
腰を下ろして休んでいると、ほんの数十秒だろうか。
奇跡的にも霧が晴れ、目の前に絶景が現れた。
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下山開始、暑さのため途中の小川で頭から水をかぶる。
これで汗まみれの頭もスッキリだ。
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無事テント場に戻ってきた。
先程とは比べ物にならない程のテントの数。
そのテント場の真ん中に陣取ってしまったのが仇となり、隣のテントでは学生のグループが大声を上げて話している。
少し外れた所に良さそうな場所が空いていたため止むを得ずテントを運び出す。
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陽が落ちはじめた。
フリーズドライで食事を済ませ、僕等はカメラを構えながらシャッターチャンスを狙う。
つい洗ってしまった衣類は濡れたまま。
朝になっても乾かないなと思いながら僕等はシュラフに身を包み目を閉じた。
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翌朝、小屋の天気予報は晴れ。
4日間で最も天気が安定している日だ。
朝靄に包まれながら小太郎小屋へ戻り、注文していたお弁当を受け取る。
荷物になるため小屋の前で食べていくことにした。
酢の効いたご飯が美味しい。
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今日の目的地は雲ノ平。
5時間の行程だ。
木道に沿って歩いていく。
順調に距離を稼ぎ薬師沢小屋に到着。
轟々と沢の音が聞こえる。
この先は北アルプスでも屈指の急登が待ち構える。
水を汲み、準備を整え出発する。
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一気に雲ノ平へ突き上げている2時間の直登ルートだ。
蒸し暑い樹林帯の中の急登にもがき苦しむ。
帽子が汗を吸って、動くたびに鐔から汗が滴り落ちる。
途中でゆっくりと下ってくる中年の男性に出くわす。
話を聞くと滑って尻もちをついてしまったとのこと。
無事に小屋まで戻れることを願いつつつも、ここは下りでは使いたくなと思う。
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木道が現れ直登の終わりが見えてきた。
久しぶりに森林限界へ出る。
僕等が急登に苦しんでいた間、天気は下り坂となり、雲ノ平周辺は霧で覆われてしまっていた。
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少し霧が晴れ、黒部五郎岳が姿を現してくれた。
他の山も見えるといいのだが。
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木道を歩き続け、雲ノ平小屋に到着。
ここで昼食をとることにする。
山の中とは思えない洒落た小屋の食堂でカレーライスを注文。
ご厚意にも大盛りにしてくれた。
食べた後で今後の計画を立てる。
丁度その時、食堂のTVでは台風情報が映し出されていた。
どうやら7日にこの北アルプスに上陸する模様。
6日に山を降りなければ8日の仕事に間に合わない恐れが出てきた。
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さてどうするか。
ひとまず今日の予定としていた雲ノ平キャンプ場まで僕等は歩きはじめた。
キャンプ場に着く。
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シーズン真っ只中にも関わらずテントの数はまばらだ。
台風上陸を恐れて明日に山を降りる人がほとんどなのだろう。
ここまで歩いていく道中で出会った夫婦がテントを張っていたので話を聞くと、
時間があるので停滞覚悟とのこと。時計を見ると14時を回っている。
ここは雲ノ平。
ここから折立へは急いで引き返しても丸一日かかる。
山を下らなければならない想いと予定通りの道を進みたい想いが葛藤する。
話し合い出した結論は、明日の6日に山を下ること。
それには少しでも先を急いで距離を稼ぐことだった。
僕等は一旦下ろしたザックを背負い、4時間程先にある三俣蓮華小屋を目指して再び歩きはじめた。
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幸いにも今日の天候は安定している。
向かう祖父岳山頂方面は奇跡的に青空が広がっている。
更なる幸運に遭遇。
これまでガスで隠れていた水晶岳が、その荒々しい山容を現してくれたのだ。
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祖父岳の登りを超え、山頂へ飛び出す。
目の前には歩く予定だったワリモ岳から鷲羽岳の稜線が視界に入った。
今の所、僕等の判断は間違っていないようだ。
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計画していた水晶岳は諦め、岩苔乗越から黒部源流沿いに下っていく。
今回こそはと意気込んでいたがやはり僕にとって水晶岳は遠かった。

黒部源流ルートは稜線の様な眺望は無いが、沢の音とお花畑が広がる素敵なルートだ。
ただ今の僕には満足にそれを楽しむ余裕がない。
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沢の鞍部から折り返しに差し掛かった辺りで、突然激しい雨が降ってきた。
急いでザックからカッパを取り出す。
カッパを羽織ったたところで、雨が止んでしまった。

三俣蓮華小屋を目前に二度目の雨がぱらついてきた。
またすぐ止むだろうと、そのまま歩き続ける。
一気に雨足が強まりたまらずカッパを身に纏う。
ザックの中が雨で濡れてしまった。
山の天気は気まぐれと痛感。

18時頃、やっとの思いで三俣蓮華岳のテント場に到着。
急いでテントを設営する。
辺りはすっかり日が落ち、一気に闇が迫っている。
昨日同様、簡単なフリーズドライ食で済ませ、僕等は寝袋に潜り込んだ。
明日は長い一日になりそうだ。

3時に起床。テントの外は真っ暗闇だ。
小屋の掲示板には日の出の時刻は4時56分となっている。
天気は良さそうだ。
まずは鷲羽岳山頂からご来光を望むため、僕等は頭にヘッドライトを灯し空身で山頂を目指す。

鷲羽岳の斜面はガレ場になっており人が落石を落としてしまう危険が高い道。
暗いため、ルートを示すペンキ印が見えにくい。
神経を使いながら慎重に登っていく。
背後には今日の山行を占うかの様に月が煌々と怪しげな光を放っていた。

徐々に空が明るくなってくる。
それと同時に北アルプスの黒いシルエットが姿を現し始めた。
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ようやく山頂が近づいてきた。
山頂には一人の登山者が僕等よりも先に到着している様だ。

ようやく鷲羽岳山頂に到着。
そこには360度の大絶景が広がっていた。
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先に着いていたザックの小さな女性と話をする。
彼女も今日のうちに折立へ下山するとのこと。
しかも水晶をピストンし雲ノ平を通過するらしい。
僕等では2日間は必要な行程だ。
ウルトラライトの機動力を痛感する。
到着して間もなく真っ赤に燃えたご来光が雲を割って顔を出してくれた。
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僕等の後に登山者が続々と登ってきた。
そう長居はできない。
入れ替わる様に僕等は山を降り始めた。
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順調に下りテント場に戻ってきた。
急ぎ早にテントを撤収、最終目的地、折立まで続く超ロングルートへ足を踏み出した。

まずは黒部五郎小舎を目指す。
絶好の夏山日和。
午前中一杯は持つとの予報。
天候が崩れる前に距離を稼ぎたいところだ。
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三俣蓮華小屋から黒部五郎小舎までは気持ちの良い稜線が続く。
ゆっくり満喫したいところだが、そんな余裕はなさそうだ。
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山に入って三日目、昨日もロングルートを歩いてきた。
身体には見えない疲労が蓄積されている。
後輩は腿裏、僕は右足首に違和感を感じ始める。
あとは気持ちだけが頼りだ。

8時半過ぎに黒部五郎岳小舎に到着。
まるで別世界に迷いこんだかのようだ。
緑に囲まれた中にひっそりと建っている。
本来であれば明日の目的地であった小屋。
閑散としていて僕等以外の登山客は中年男女4人組のパーティのみ。
話を聞くと、そのパーティも今日のうちに降りたまで降りたいとのこと。
小屋番にも話を伺う。
やはり午後から天候が崩れるらしいそれだけでなく、もっと重大なことを知ることになる。
「雨が激しいと林道は閉鎖されます。」と。

折立へはエスケープルートはなく黒部五郎岳を越えていく必要がある。
小屋が正味2時間の行程だ。それにして今日の北アルプス、不気味なくらい人の気配がない。
皆、台風を恐れて早々と下山したのだろう。
穏やかな気候が嵐の前の静けさをより一層引き立てている。

樹林帯を抜け黒部五郎岳のカールに飛び出した。
岩と緑が織り成す絶景に僕等は目を奪われてしまった。
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ここを登れは山頂に飛び出すはずだ。
カール上部の急登に取り付いた。
暑さの中、ザックの重さが疲れ切った身体にのしかかる。
後輩の問いかけに返事を返すのもままならない。
この旅一番の正念場だ。

やっとの思いで黒部五郎岳の稜線に出た。
山頂はもう少し先の様だ。
最後の力を振り絞る。
数分後、僕等は誰もいない山頂に立った。
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ここまではコースタイム通りだ。
天気はまだもってくれている。
次の山、北ノ俣岳を目指して僕等は黒部五郎岳を後にした。
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ここから長い稜線が続く。
時間があれば気持ちのいい稜線だろうが、今の僕等はそれを楽しむ余裕がない。

いよいよきたか。
しばらく進むと小雨がぱらついてきた。
前日の反省点を活かし、即座にカッパを身に纏った。
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いくつかの小ピークを越え、北ノ俣岳山頂に到着した。
曇天が空を覆い、今にも本降りになりそうな気配を漂わせていた。

ここから太郎平小屋までは平坦な道のりだ。
なんとか15時半くらいには着けそうだ。
道端に咲き誇る高山植物にシャッターを向ける。
僕等の中に少し余裕が生まれてきた。

太郎平小屋に到着。
後は折立までの3時間の下りを残すのみ。
台風で明日は行動できないだろう。
小屋には数名の登山客が連泊を覚悟での停滞を余儀なくされていた。
小屋で買った冷たいコーラで充電完了。
下山し始めたのは16時前。遅くても20時までは山を下りられそうだ。

名物アラレちゃんの看板を通り過ぎる。
あと少しと思えば思うほど永遠と続く登山道。
立ち止まると動けなくなりそうだ。
お互い無言で下り続ける。
ようやく登山口に飛び出した。
ベンチに座り僕等はしばらく動くことができずにいた。
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さあ帰ろう。
重い腰を上げ駐車場に向かう。
広い駐車場に止まっている車はほんの数台だ。

車に乗り込み、念のため近くの小屋にいた守衛さんに道を尋ねる。
ここで思いもよらない話を聞くことになる。
「20時までに麓のゲートを通過しないといけないよ。」と。
時計を見ると19時を回っている。
林道はどのぐらい続いていただろう。
ソワソワしながら車を走らせること約40分、無事麓のゲートを通過。
時計を見ると19時50分。
どこかで一回休憩していたら間に合わなかったかもしれない。

ノロノロ台風5号により時間に追われ続けた2017年夏。
15時間行動という記録的なこの苦行を僕等は忘れることはないだろう。